2006/07/05
昼過ぎに受け取った電話は母方の祖母が倒れ、
緊急入院することを告げるものだった。
さっそく見舞いの為に車を走らせた。
506号室、祖母のいるスペースのカーテンを開ける。
酷い状態だ。顔はうつろ、舌が動かず唸るばかり。
四日前に会ったときは、畑で元気にじゃがいもを掘って
「もっていってけぇ」
といつもの笑顔でたくさんの野菜をおみやげをくれていた。
脳梗塞。今まで二度それで入院していたが、
今回の症状が一番酷く見える。
同居の親類は生まれたばかりの赤子の面倒に忙しく、
しばらく母が看病することになった。
毎日僕が車で送り迎えすることになりそうだ。
病院は、近くない。
祖母は苦労してきた人なので、近々白浜に温泉でも連れて行こうかと
思っていた矢先の入院だった。
僕はいつもそうだ。決心が遅い。こうなる前に連れて行っていれば・・・。
もう、回復は見込めないかもしれない。
いつもそうだ。いつも、手遅れになってから悔やむのだ。
「最後の親孝行になるかもしれないからね」
目を赤くした母がそうつぶやく。
同じく脳梗塞を患った父を、18年間看病をしたあと、
父方の痴呆になった祖母も数年看て、
今度は自分の母親の看病をすることになった母。
帰り道、なんともやりきれない思いでハンドルを切る僕。
スピーカーから流れてくるのは明るい曲だったようだけれど、
僕の耳には右から左だった。
そうして不図、脳に流れるメロディーは「無縁坂」のこの一節。
運がいいとか 悪いとか
人は時々 口にするけど
そういうことって 確かにあると
あなたを見てて そう思う