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【仕事】さいたま地裁・木嶋佳苗被告裁判傍聴記

木嶋裁判01

さいたま地裁で行われた首都圏連続不審死事件の
木嶋佳苗被告裁判の法廷画を担当しましたので、一部紹介したいと思います。

木嶋裁判02

裁判員裁判では過去最長の95日を記録した異例の裁判で
決定的な証拠のないまま、間接的な状況証拠のみで一審の判決を下すという
難しい判断を迫られる裁判となりました。

木嶋裁判05

連日のように報道されていたので事件の詳細は省きますが
大まかにいうと被告人が結婚を前提に付き合っていたという男性が
3名とも次々に不審死したという事件です。

木嶋裁判03

初公判は今年1月10日。僕は2月20日から4月13日の判決公判までを主に担当し
傍聴席に座って裁判を見届けました。
同じ被告人の裁判を合計10回以上担当したのは初めてです。
被告人は一貫して無罪を主張し続けていました。
その見た目からは想像つかないほどの美声で、ソプラノ声というか、アニメ声というか、
言葉使いやメールの文面も綺麗で立ち振る舞いも優雅。
残虐な犯罪を疑われている被告にしては粗暴な感じが一切しませんでした。

木嶋裁判04

3月12日、検察の論告求刑がありました。求刑・死刑です。
検察官が裁判官、裁判員に対してこのような例えを使っていたのが印象的でした。

「夜に星空が広がっていたのに、翌朝は一面の雪化粧だったとします。
 雪が降った場面を見ていなくても、夜中に雪が降ったのは明らかです。
 誰かがトラックで雪を運んだ可能性はあるが、 社会常識に照らせば合理的ではない。
 皆さん、是非常識で考えていただきたい。」


木嶋裁判06

続いて3月13日、弁護人による最終弁論。
被告人に向けられた疑惑を全て否定し、一貫して無罪を主張します。
一連の疑惑は検察が描くストーリーに過ぎないとし、このような言葉で締めくくりました。

 「不確かなことで処罰することは、あってはなりません。
 有罪になるのは、常識的に従って間違いがないときだけで、
 疑問が残るとき、疑わしきは被告人に有利にというのが、刑事事件の大原則です」


木嶋裁判07

そして、一ヶ月後の4月13日、判決が下りました。
裁判が始まってすぐ、主文を後回しにした裁判長をみるやいなや立ち上がって
慌ただしく法廷を出る記者たち。2時間にわたる論述の末、裁判長が出した判決は、

「3人の尊い命を奪った結果は深刻で甚大。動機は身勝手で酌量の余地はない。
 主文、被告人を死刑に処する。」


求刑通りの死刑判決でした。わっと騒然となる傍聴席。緑色の制服を着た警務官たちが
「静かにしてください!おちついて行動してください!」と叫ぶほど
一斉に立ち上がって出口に向かう報道陣。異様な光景でした。

その後の裁判長の「被告人は判決に・・・・異議のある場合、刑訴法37・・・・14日以内に・・・」
と控訴の説明をする声がほとんど聞き取れないほどでした。

木嶋裁判08

今回の裁判、もし、裁判員制度導入前の状態で行われたとしたら、
証拠不十分で殺人罪については無罪(他の詐欺事件は別)だったかもしれません。
検察のいう、「誰かがトラックで雪を運んだ可能性」を、裁判長や裁判員たちは
所謂「社会常識」に照らして「それは無い」と判断したわけですね。

自白も、目撃証言も、直接証拠もなく、状況証拠のみで厳しい判決が下ったことに
非難の声が多数あがっているようです。
こんなのがまかり通るのであれば今後冤罪が増えるじゃないかと危惧する声も見かけます。

僕は一介の絵描きで、難しい法律論はよくわかりませんが、
裁判員制度は、一般人である我々が社会に生きる上で、その社会で起きた重要事件に対し
当事者意識を持つために機能する制度だと思っています。

ランダムに選ばれた一般人が、裁判員として法廷で、それぞれの人生で培ってきた
「社会常識」を示せる時代になったのですね。今回の判決はそれを如実に示したと思います。

僕は法廷画家を初めて10年目になります。
様々な裁判をみてきた中で、到底納得できない情状酌量や判決もありましたし、
司法の決定が民意と乖離していると感じることもままありました。

それが縮まる可能性のあるこの裁判員制度。
僕はこの制度が始まって良かったなと思っています。

プロフィール

榎本よしたか

Author:榎本よしたか
フリーランスのイラストレーター兼法廷画家です。書籍やテレビ番組用に絵を描いています。アコースティックギターと歴史雑学が好きです。

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